辺境伯だった夫を喪って5年。
成人している嫡男が後を継ぐ事を保留にして、
自分が領地と国境線を治めている女傑と呼ばれる女だ。

前国王陛下がそれを特別に認めて、王女を押し付けた弱みから現国王陛下も、遠慮をしていた。
だが、もうこの女はそろそろどうにかするべきだろう。
自分は何をしても、何を言っても、許されると思っているのか。
怒りで目の前が赤く染まる。


『亡くなって直ぐに切り替えがお早いのは、
さすが王族でいらっしゃる』

『少なくとも私は、誰かの代わりにしたい訳
じゃありませんの』


この女が俺に対して言っているんじゃないのが、わかったのだ。
アグネスに聞かせようとして、俺に向かって言っている。
自分の手に入らないのなら、傷付けてやると、いう事らしい。
この女の闇の深さを見せつけられて、反対に俺は力が湧いてくるのを感じていた。


本当はもう諦めている癖に。
息子が愛した女性を、自分が受け入れるしかないと気付いた癖に。
何があっても、別れようとしないふたりだ。
バージニアを見ていて、自分の思い通りに人を育てる事がいかに難しいか骨身に染みた筈だ。


さっきまで、自分の生まれた家を、
住んでいる世界を、地獄だと。
そう見ていた俺だったのに。

今はジョセフ・バーモントと協力関係を結んで、この女をどうやって隠居させて片付けるかの算段をしていた。
俺がどう動いても、国王陛下は文句を言わないだろう。