アグネスがデビュタントに出席する為、既に帰国しているのは知っているのに、会いに行く元気も時間もなくて、新年の挨拶の代わりに花を送った。
身体も疲れていたが、精神的に疲れていた。
眠っている間に変な夢も見た。


デビュタント当日は朝から気合いを入れる。
本当はまだ眠りたかった。
身体の疲れは取れていたが気持ちはなかなか
上向きにはならなくて、身体を丸くして眠り
続けたかった。


侯爵家へアグネスを迎えに行く。
彼女の顔を見ると、気分が回復した。
会うのは4ヶ月ぶり、また大人になった。

サンプルで着たドレスとデザイン画しか見ていなかった。
デビュタントのドレスは1日だけしか着ないのが勿体ないくらい美しくて、彼女によく似合っている。
俺が注文をつけた紫は、胸元のレース部分に縫い付けられた小粒の真珠が、微かに薄い紫色に染められていた。
金はドレスの裾に金糸で細かな刺繍が入っていた。


「凄く、凄く綺麗だ……」 

自分の語彙が貧しいことに今更ながら気付く。
ふわりと微笑む彼女にスミレのブーケを渡す。


「以前、殿下はスミレを刺繍したシューズを
プレゼントしてくださいました。
 あれから大好きな花になりました。
 ここから少し抜いてもいいですか?」

何をするのかわからなかったが頷くと、ブーケ
から何輪かのスミレを抜いて、彼女は真珠の
髪飾りの横に挿した。


「鏡で確認しなくても、大丈夫?」

俺が尋ねると何も答えず、アグネスは尚も微笑むだけだった。