カイン・ブライズとして無事にリヨンに入国し、バロウズ大使館へ入った。 
ここからは、クライン殿下と繋ぎを付ける算段を大使事務次官と話し合う。
想定していたより事は大きくなっていたのかもしれない。

本日リヨンの外務大臣は、内々に大使を名指しで呼び出していたのだ。
これはバロウズへの抗議を意味している。
こちらからは王弟として、何の用かと働きかけられないので、大使の帰りを待つしかない。

朝早くから呼び出された大使と首席事務官は、
正午になる前に帰館した。


「私の入国がもう伝わったか?」

「……それはまだ把握しておられませんが、
クリスチャン・シモーヌ様が早馬を飛ばした事は知られておりました。
 殿下のご入国も、午後には国境から連絡が入るかと」

「……」

「オーガスタ嬢の件も女王陛下は御存じです」

大使がクライン殿下の元恋人を名前で呼ぶのは、ラニャンでは平民には名字がないからだ。
事の詳細を首席事務官が説明する。

ラニャンの殿下の友人から便りが届いて、オーガスタが結婚すると知った殿下が我を失って、結婚前にもう一度会いたいと乱心しているらしい。