『初恋を貫く男』と呼ばれるご嫡男の事。
私の代わりに、バージニア元王女殿下が条件付きで辺境に送られた事。


それを聞かされて私は。
2年前に亡くなられたバージニア殿下は落馬事故だったと聞いておりました。
乗っておられた馬の耳に蜂が飛び込んで、暴れた馬から振り落とされて首の骨を、と。

でも、それが。
あの辺境伯夫人のお眼鏡に叶わなかったせいだったとしたら?



このテラスには沢山の焚き火台が設置されていて。
暖かな膝掛けも用意されていて。
私は殿下の上着も羽織らせていただいて。

寒くはないのに、震えがきて。
私は殿下からの上着を、身体の前で両手を合わせてぎゅっと握りました。


そうなるかもしれないのに、条件を付けて、王女殿下を預けた王家と。
辺境伯家の数年にわたる計画。


かつて母から言われた言葉を思い出しました。
私では『身の丈が合わない』と、言われたのです。

あの時は私が幼いから。
高価な贈り物等してはいけないと。
それを言われたのだと思っていましたが。


本当は、母はこれを言いたかったのだと思いました。

私のように弱い女は、殿下の隣に立てない、と。


「早く婚約したい」

握る手に少しだけ力を込めて、殿下が仰ってくれましたが、私は頷けませんでした。


クラリスなら、噂も、貴族間の思惑も、上手く
対処出来た様な気がしました。
でも、私には出来ない。


私は貴方の隣に相応しくないと、この夜思い知らされたのでした。