傍らに立つ殿下を見上げると。
焚き火台の炎が殿下の顔を照らしていました。
強く唇を噛まれていて、その瞳は私が今まで知っていた『お優しい殿下』とは、違うひとのように見えました。


 ◇◇◇


まず、自分の愚かさをお詫びする前に。
私を守ろうとした護衛騎士様を罰しないように
お願いをしました。
私が騎士様を止めたのです。


「心配しなくてもいい、護衛を罰したりしない
から。
 男共が近付いたら蹴散らせと、命じていたんだ」

「本当に申し訳ありません。
 ……私、誰でもいいから、女性の方とお話を
したかったのです」


私の考えなしの行動が、殿下を不愉快にさせて
しまった。
今夜の為に、私に心を砕いてくださった殿下に。


殿下が手を引いてくださって、再び長椅子に座りました。
私の手を離す事なく殿下は、話し始めました。


「君は、身代わりなんかじゃない。
 俺にとっては唯一のひとだ」


辺境伯夫人が仰せになった『誰かの代わり』という言葉。
今更、それを聞かされたところで……
そうぼんやりと思っていたら。


『あの女が君に執着しているわけも聞いてほしい』と、仰られました。

そして初めて聞かされたのです。
6年半前、私が9歳の夏。
辺境伯家から打診された縁組の事を。