─何を聞かされても、噂なんか信じません。
私は貴方が語る言葉と、自分自身の目で見た貴方の姿だけを信じます─


かつて、私はそう殿下に誓いました。
あんな風に胸を張って言えたのは、それが自分の噂ではないから。
殿下と姉の噂だったから。

根も葉もない噂だと、殿下から、姉から。
耳に入ったと報告すれば、その説明を聞くだけで済んだから。
だから、あんな風に言い切れたのです。


いざ、自分がその立場になり、噂に名前が出ると。
私は姉の様にそれに立ち向かう事は、出来ませんでした。

目の前の殿下の言動ではなく。
名も無き他者からの興味や悪意、羨望や嘲りや。
そんなものに囚われる様になったのです。


 ◇◇◇


王族への御目見得は、父が紹介の口上を述べ、
殿下に付き添われ、兄に後に付いて貰い。
何とか無事に終わりました。
私の後には、公爵家の令息ひとりだけが残っていて。
彼が終われば、後はダンス披露があり、それでデビュタントの行事は終了して、通常の夜会へ移行されるのです。
私の手を取り、殿下が滑る様にエスコートをしてくださいます。


昨年殿下の休暇が終わり、バロウズへ帰国される前日に、祖母の邸の広間でデビュタントで踊る
バロウズ円舞曲をかけて、久し振りに殿下と踊りました。