オルツォ様とは特に約束等した事はございません。
いつも食堂で顔を合わせたら、二言三言言葉を
交わす位です。

この日もそうでした。
私がイルナ様や他の友人と食事を終えて教室に
戻ろうとしたら、ヴィーゼル・エリザベート様と食事を取られていたオルツォ様に声をかけられたのでした。


「ご無沙汰しています、エリザベート様」

「本当にお久しぶりです、アグネス様」

今ではヴィーゼル様とお互いに名前で呼ぶ様になっておりました。
エリザベート様とオルツォ様は幼馴染みで、小さな頃からお芝居ごっこをなさっていた、とお聞きしました。
だからこそ、ヴァンパイアへの抜擢があったのです。
エリザベート様は貴族学院をご卒業後、オルツォ様のお兄様とご結婚なさいます。


「では、またね、マルーク様」

先に席を立ち、食堂を出ていかれるエリザベート様の後ろ姿を優しい眼差しでご覧になっていた
オルツォ様でした。
面と向かっては絶対に見せない表情で、エリザベート様が気付かないところでしか見せないお顔でした。
今ではイシュトヴァーンと改名された彼を、
マルークと呼んでいるのはエリザベート様だけでした。
オルツォ様は彼女だけに、その名を呼び続ける事をお願いになっていたのです。