違う、違う、確かに3回言ったけど!
そんなんじゃなかった、先生の代わりに言っただけなんだ!

それを聞かせてくれたら、勇気を貰えるだったか、頑張れるとか、何とか言われて。
クラリスは楽しそうに笑っていたけど、俺は楽しんでなんかいなかった!
カードを返して欲しくて言ったんだ!


いつの間にか俺の背後に回っていた先生が俺の肩を押さえる。
アグネスに知られていた事に動揺して体勢が動いていたのだ。
見上げると先生の赤い瞳と視線が絡んだ。
『違います』と否定したいのに、首を振られる。


「殿下もクラリスも、あんなに上手にトルラキア語を話せるなんて教えてくれなかった。
 私の知らないところでふたりで勉強して、おしゃべりしていたのだ、としか……」


ひとりしか教えたくない教師に、王城で教えて貰っていたんだ。
先に習得を終えていたクラリスとは、同時に習っていない。

あの日まで、学園ででも二人きりで会った事もなかった。
いつだって、並んで歩く時だって、間にレイを挟んでいた。