先生がベルを鳴らせば、待ち構えていた様に家令が来たので、何事か指示をする。

直ぐさま、5人の下男達がそれぞれ両手に銀の
二本立て燭台を持ち、応接間のあちらこちらに置き、蝋燭に火を灯した。
ほぼ同時に家令が厚いカーテンを閉じると、部屋の中の灯りは20本の揺らめく蝋燭の焔だけ。
そして先生は窓際のデスクの上の燭台に太くて
長い蝋燭を1本灯して、夫人に手渡した。

先生が下がろうとする家令に告げた。


「こちらから呼ぶまで、誰もここに近付けるな。
 例え当代が私を呼んでも、だ」


それらは手順があまりにもスムーズで、短時間に行われたので焦ったアグネスは、あちらこちらに目をやっていた。
目の前で行われた展開の早さに理解が追い付いていないのだ。

彼女に疑問を持つ時間を与えないまま、迅速に
物事を進める先生に。
協力をお願いしたのは間違いではなかったか、
少しだが恐怖を覚えた。