「ようこそ、お越しくださいました」

ストロノーヴァ公爵邸に到着すると、先生が出迎えてくれた。
前回、伺ったときに打ち合わせていたのではないが、先生も久し振りに会った雰囲気を出してくださっている。
これで今回の訪問の目的がアグネスを催眠術に
かける事だとは気付かれないだろう。
それと、俺にはある指令が下されていた。
それは……

『こちらに来る馬車の中で、アグネスの母上、
もしくは姉上の名前を出して、会話をする』

それも出来るだけ中途半端に会話を止めるという俺にとっては難度の高い指令だ。


ストロノーヴァ先生の説明によると、そうする事でアグネスの頭の中に、それについて思い出したり、まだ語り足りないだったり。
そんな風に記憶を誘導しておくと、話す下地が
出来て話を引っ張り出しやすいというのだ。