「俺、耳凄くいいの、え、どうしたの?」

オルツォ様が礼服の胸のポケットから真っ白な
チーフを抜かれて、私の目元に当てました。


「ごめん! テラスへ移動しよう?」

軽く背中を押されて、テラスに置かれていた長椅子へ誘われました。
その時点でもう、貸してくださったチーフは、
かなり濡れてしまっていました。


「無神経過ぎたよね、ごめん。
 年齢も離れているし、ちょっとからかうつもりで、ごめんなさい」

「……わ、私の方こそ……ごめんなさい。
 変だ、泣くなんて……皆様に変に思われましたよね」

ある程度泣かせて貰って、少し落ち着いた頃、
オルツォ様に謝罪されました。

泣いてしまうと、側に付いていてくれた方に心を許してしまうのは何故なのでしょう。
心にまで寄り添っていただいているように思えるからでしょうか……


気が付くと、私はオルツォ様に話をしていました。
今まで誰にも話すことの出来なかった、殿下の事、姉の事、母の事。
そして、姉を呪ってしまった事。
その結果、母と姉が亡くなってしまった事まで……
箍が外れてしまった様に。


「その、殿下が君を姉上の代わりにしようとしているのは本当の事なの?」

私は言葉もなく、頷きました。


「それで、君はそれを受け入れるの?
 そうする事で贖罪にしようとして?」


オルツォ様はそれ以上は何も仰いませんでした。
中のホールでは明るく美しい方達が楽しそうに笑いさざめいていました。
テラスは暗く、月の光だけが私達ふたりを照らしていました。

私の考えを正しいとも、間違っているとも、言わない彼に理解して貰えた様な気が致しました。