それを聞いた先生はしばらく考え込んでいた。


「呼吸困難、震え、胸の痛み……後手足が痺れて?」

「特に呼吸が浅くて、短い間隔で吸うばかり、でした」

「……私の大学時代の友人に催眠術を専門にした人間がいまして」 

「催眠術?」

いきなり何を言い出すのかと思った。
催眠術とは最近、内輪の集まりの出し物として流行りだした眉唾物の奇術のひとつと言われている代物だ。


「怪しいものではありませんよ?
 私が見せて貰った症例では、術にかかって誘導されると、全てを吐き出していましたね」

症例、と来たか。
俺の知ってる催眠術とはまた違うやつかな。
伝承民俗学なんていう妖怪話を研究している先生の友人だ。
巷に溢れている催眠術とは違うのかも知れない。


「術者は女性です。
 もちろん、殿下もご同席していただいて」

「先生の事は信頼していますから、ご友人の事も……
 アグネスの心身が楽になるならお願いしたいのですが、彼女が嫌がる様子なら」

「えぇ、それはそう、催眠術だとはっきり伝えますよ。
 ただ、これは私の研究に必要だとさせて貰って、殿下には一旦、反対していただきましょう」

……これは王太子得意の、一見反対しているように見せる仕込みと同じか。
反対されてアグネスは催眠術を受ける気になる?なるのか?