もうあの、呼吸もままならない状態は、消えたのだろうか。
それはトルラキアの環境が。
それともあの、オルツォとの出会いからか……


「ノイエ先輩のお陰で、またストロノーヴァ先生とお会いすることが出来たのです。
 先生も殿下と久し振りにお話をしたいと仰せでした」

俺の気持ちも知らず、アグネスは視線を外して、邸の中に戻ろうとする。


「バロウズでの君のデビュタント、俺がパートナーでいいね?」

頼むから、『はい』と言ってくれ!
俺の願いが通じたのか、アグネスは頷いてくれた。
思わず、華奢な彼女を抱き寄せた。


「……」

「何か言った?」

彼女が俺の腕の中で、小さく呟いた言葉が聞き取れなくて。
もう一度、彼女が言った。


「私は殿下のお願いを何年かかろうとも、必ず叶えますから……」


彼女の言った意味はよくわからなかったが。 
俺の願いは、君だ。

久し振りに会えた愛しいひとを抱き締めて、俺は彼女の薔薇の香りに酔っていた。