そして、葬儀の日以来やっと会えた彼女から。
アグネスからの言葉に、俺は驚いた。

『殿下は好きな事をしてもいい、と仰っていた。
 私はトルラキアへ行きたい。
 ここから、しばらく離れたい』


来月、祖母と共にトルラキアへ行くと言う。
最初は母と姉を失った辛さから逃れる為に、少しの間だけ祖母のところへ身を寄せるのかと思ったが、あの国の学校へ通うと聞かされた。


確かに俺はそう、3年前にアグネスに好きにして自由にして欲しい、そう言った……

君は君の望むように、思うようにしてくれたらいい、そんな事を告げた記憶はある。
ちゃんと覚えているし、その気持ちに嘘はない。
しかし、それはあくまでも俺の側で、なんて思っていたんだ。

自分だって、将来の為に彼女から離れてリヨンへ行くのに、俺はアグネスには何処へも行って欲しくなかったのだ。


『喜んで全力で近付けないように』

侯爵に言われたが……もしかして、トルラキア行きは侯爵が勧めた?


「お父上からも承諾は得たの? 旅券の申請も終わっているの?」

まだ12のアグネスが自分で決定したとは思えず、いや、思いたくなかった。
君が俺から離れていく?


「……父からは、お前の好きにしていいと。
 申請はまだです、今夜話して、手続きをして
貰おうと思います」

「……」


アグネスが求めるのであれば。
侯爵から聞いたそれは俺の事だけではなく、全てにおいて、なのか。