下城する侯爵を馬車まで見送る。
何を言えばいいのか、わからない俺に侯爵から話しかけられた。


「私の真意は別として。
 アグネスが殿下を求めるのであれば、邪魔は
致しません」

「……」

「もう二度と、子供から嘘を付かれたり……
 これ以上は勘弁して欲しいですから。
 息子や娘の心まで、親が思うようにするのは
無理ですね。
 思い知らされましたよ」

「……では、アグネスに」

「ご随意に。
 しかし、娘が貴方を拒否したなら。
 喜んで全力で、近付けないように致します。
 もう王命など聞く気はない」


バロウズは忠臣を失った……?
『お見送りありがとうございました』
そう言って、侯爵は扉を閉め、前を向き。
俺の方は見なかった。


そして、その日の内に侯爵家から書状が届いた。

『お探しのドレスは、こちらにはございません
でした。
たぶん、クラリスが持って逝ったのでしょう』と。


それと同封されていた、大臣職の暇願い。
2つを同時に届けさせる行為に、王家に対しての敬愛は少しも残っていないのを、思い知らされる。

それを受け取って、怒り、不敬だといきり立つかと思っていた王太子は。
静かに2通をびりびりと裂いた。

侯爵家に何かのお咎めを与えようとするなら、全身全霊で阻止しようと決めていたが、王太子は何もしなかった。

あのドレスは何処にも無い物。
そう決まったのだ。