……それは、ケネスの婚約者の、ご令嬢がきっと嫌がるから。
幼い頃からふたりは婚約していて、葬儀にもご両親と共に参列してくださっていましたが、ケネスとチェルシーと3人でいた私を暗い目で見ていらした。

これから私が定期的にケネスの邸に通えば、あの方は心まで暗くしてしまう。
例え単なる従妹であっても、1度疑ってしまえばそう見えてしまう。
自分が嫉妬に苦しんだから、私のせいで同じ様には苦しんでいただきたくないのです。
つまらない事だと言われるのを恐れて、ご令嬢はケネスに話せないでしょう。


私がそれ以上言わないので、父はじれったいようでした。
これが祖母や叔母だったら、わかってくださった。
だけど父や兄や、きっとケネス本人さえわかってくれない。


祖母が仰りたいのはこういう事です。
男性はいちいち口にしないと、わかってくれない。
女性でも、他人のマナーの先生になど言えない。
家族に女性が居ないのに、ちゃんと育てられるのかとは、こういう事なのでしょう。


扉がノックされました。
父が応じると、家令が銀のトレイを捧げるように入ってきました。