ケネスは私のお願いの通りに、私の側に居てくれました。


「初めまして、私はアグネスの従兄のケネス・ダウンヴィルと申します……」

「あ、あぁ、初めまして……」


こんな場では長々と挨拶出来る筈もなく。
殿下もケネスもそれくらいしか言うことはなくて。
私を挟んで、右にいらっしゃる殿下からは、いつもの人懐こい雰囲気はないし、左のケネスは少し不機嫌で。
彼は巻き込んだ私を恨んでいるのでしょう。
私を調理場まで追いかけたせいで、巻き込まれてしまった自分を悔いているのかもしれません。



翌日のお別れ会にも殿下は邸に御出になりました。
父も昨夜は動きたくなかったようですが、さすがに今日はお別れに来てくださった皆様に挨拶もしていました。

殿下とプレストンはすっかり仲が良くなった様で、よくお話をされていました。
それをぼんやりと眺めていたら、私の視線に気付かれたのか、殿下がこちらにやってこられました。

ケネス、ケネス! と私は周囲を見回しましたが、彼の姿は何処にもなくて。


「兄上に聞いたけれど、刺繍をしているの?」

「はい、お母様の棺に入れてあげたくて……」

「余計な事だと思うけれど、無理したら駄目だからね?」

「……」

「ちゃんと眠れてる? 少しでも食べてる?」 

「……寝ていますし、食べています」

殿下の手が、私の頬に触れて。
ケネス、早く来て!
なんだか、殿下がお優しいの、泣きたくなるくらいに。
お願い、早く……