冷たい雨の匂いと共に。
邸に父と兄と騎士隊の皆が戻ってきました。
全員濡れて泥まみれで、疲れているだろうに両の瞳だけは暗く光っていて。


「ふたりは後で、綺麗になって帰ってくる。
 後からアシュフォード殿下が御出になる」 
 

ただそれだけを告げて、父は椅子に倒れ込みました。
祖母が指示していた大量のお湯に、布が浸され、ひとりひとりに手渡され。
父と兄にはお湯に浸かり冷えた身体を温めるようにと、祖母が言ったのですが、父は椅子から立ち上がれず、ただ目元を押さえ嗚咽を漏らすのみでした。
では、せめて兄だけでも、と祖母は言いましたが。
兄も騎士隊員達と同じ様に、お湯で顔を洗い手を温めただけでした。
簡単な食事を勧めても、誰も欲しく無さそうで。
それでも、何か口にして欲しくて、私は母が仕舞っていたチョコレートを一粒ずつ、お疲れ様でした、と言いながら皆に配りました。