「畏れ入ります、殿下。
 その母からの書状に書かれている事は、真実
ではございません」


姉のその一言に。
護衛騎士様も、侍従も、グラスに水を注ぐ為に
テーブルを周っていた給仕も。
アシュフォード殿下も動きを止められていて。
私も息を止めてしまいました。

姉は何を、言い出したの?
母の体調が悪いとして、姉クラリスを代理にした旨を綴った殿下宛の書状の内容が偽りだと、姉はぶちまけたのです。

姉は殿下が『良い』と、言わないので。
姿勢をそのままに頭を下げ続けておりました。

財務大臣の、侯爵家長女として、姉は幼い頃からマナーを仕込まれていましたが、さすがの姉もその姿勢を維持するのは辛そうでした。


それでも殿下は何も仰らず……
母からの書状を冷めた目で眺めていました。
『私からも』と、姉と並んでお詫びをしようと
立ち上がり掛けた私の手を、殿下は手を伸ばして押さえられました。