【事件の証言】

きっかけはマダムアローズの店で、だった。
その日、ローラ・グレイシーの姉、コーデリアは来月の夜会の為のドレスの受け取りに来ていた。
基本的に注文したドレスは店から邸に届けて貰うのが普通なのだが、この日のコーデリアは、ドレスに合わせた手袋を新調したくて、新作のチェックに来たのだと語った。


「私がアローズで、長手袋や扇を見ていましたら、イザベラ・ガードナー様が侍女を伴って入ってこられまして。
 来月のご結婚の納品について問題が発生して、御本人がご来店されたのかと、店員があわてて
応対をしていたのですけれど」


ガードナー侯爵令嬢は声を潜めて、何事かを店員に囁き。
頷いた店員は直ぐに特別なお客のみが通される奥の間へとガードナー嬢を案内していった。
その後、奥から出てきた上級店員が店内の目立つ場所にディスプレイをしていた、グラデーションが美しい紫色のドレスを奥へと運んだので、それを買い上げられたのだと思った。

そのドレスは第2王子殿下と婚姻する、顧客トップのガードナー嬢をお祝いして、マダムアローズが特別にデザインした品で、価格はつけられていなかった。
つまり売り物ではなく、お二人のご成婚までの、
期間限定ディスプレイ用の特別なドレスだったのだ。