「アグネス、聞こえた?」

「……ありがとうございます。
 そうですね、そんな機会があれば」

「……」

言葉と裏腹に、そんな機会は作らないよ、と言いたげに微笑む。
このつかみどころの無い表情と会話は過去に経験している。
アグネスが心を閉じようとしているサインだ。
あの日、君に全てを打ち明けると決めた。
そうだ、今、聞いて貰おう。


「少しだけ時間貰えるかな? 君に話がある、って言ってたよね?
 あれなんだけれど……」

「ごめんなさい、殿下。
 今は、その事は忘れたいのです」

「殿下、って。
 フォードって、呼んでくれないの?」

俺のこの言い方はみじめったらしくて、嫌われるか?
しつこくしたら、駄目か。
今は、と言われて、母と姉を亡くしたばかりの君に。
この状況で話をしようとした自分勝手さに呆れるな。


アグネスは、空っぽの笑顔を俺に向ける。
あの夜、現場となった森へ行ったことにより、侯爵やプレストン、叔父のダウンヴィル伯爵まで、親族男性からの親密度は増したが、肝心のアグネスはすーっと遠くに行ってしまった様な気がしている。