いつもアグネスとダンスの練習をする広間に、
ふたりは寝かされたようだ。
明日1日、親しい人を招いてお別れをして、
明後日教会で弔う段取りになった、とプレストンから聞かされた。

ダウンヴィル伯爵が手配した生前技巧士の腕前は確かで、離された侯爵夫人とクラリスは、まるで眠っているように見えた。


放心した様にふたりの側に座っている侯爵に声をかけ、続いてダウンヴィル伯爵、伯爵夫人、前伯爵夫人に礼をする。
アグネスの祖母の前伯爵夫人にお会いするのは
2年ぶりだった。
陽気な良く笑う、気持ちのいい女性だったが、 今夜一気に歳を取り、小さくなったように見えた。
そして、アグネス。


「直ぐに来れなくて、ごめん……」 

彼女の膝の上で固く握られた小さな手を上から握る。
その手は冷たくて。
暖めたくて、両手の掌に包み込んだ。


「……父と兄から聞いていましたから。
 姉の側に居てくださっていたんでしょう。
 私はここで待っていただけですもの」

「色々調べる事があってね。
 今夜は君の側に居たいんだ」

君の側に居たい、そう伝えたけれど。
跪き、視線を合わせても。
アグネスの瞳は俺を見ていない気がした。

俺はアグネスから貰った組み紐を左手首に結んでいたが。
彼女の手首に何も結ばれていない事に気付いていなかった。