この胸が痛むのは

さっきのプレストンもそうだったが、救助現場を見ているスローン侯爵も泣いていなかった。
ただ違うのは、プレストンは外套を羽織っていたが、彼はすっかり濡れていて。
雨が降っていた時間から邸にも戻らず、ずっとふたりを探し続けていた事がわかった。



「……こちらにいらしたのですか?
 貴方はてっきりアグネスに会いに行くのか、と思っていました」

俺を見ずに、馬車から目を離さずに、侯爵が言った。 
この人には本当の事を言おう、言わなければ。


「王太子は今夜は騎士団は動かさないと。
 その代わり、俺にここをちゃんと見て、報告
せよと」

「……それは助かります。
 騎士団が動くと、皆が押し掛けて来ますから。
 今夜は家族のみで……お願いしたかったので」

「……」

「家族のみでも、殿下は歓迎しますよ。
 王太子殿下もそう思われて、貴方をここへ来させたのでしょう」

「お邪魔でなければ……」 

「ケイト……妻も、実は貴方を気に入ってました。
 早く殿下と婚約させてやって欲しいと、何度か言われていまして」

「侯爵夫人が?」

「殿下に花をいただいたと嬉しそうでした」


侯爵夫人にはそれ程親しく接して貰った覚えはなかったのに。