スローン侯爵夫人とクラリスの死を伝えられて、床にうずくまったままの俺の腕を取り、立ち上がらせたのはレイだった。

さっきとは違い、静かに次の、王太子からの伝令が来ていたらしい。


「俺は……行かないと、いけないから。
 行けないと」


俺はアグネスに会いに行かないと、いけないから。
王太子には、会いに行けないと。
そうぼんやりとレイに返事をする。

安堵の次に、自己嫌悪に襲われて呆然としていたのだ。
クラリスが死んだのに。
アグネスじゃなかったことを喜んだ。


「行かないととか、行けないとか。
 お前の気持ちなんて……
 いいから! 王太子殿下に会って、何をすべきなのか聞いてこい!」 


レイが投げつけるように俺に言った。
こんな風に言われたのは初めてだった。
あぁ、そうか、こいつは。
俺が神に感謝を捧げたのを聞いたんだ。

クラリスが死んだのに、
『ありがとうございます』と、感謝した……
俺の声を聞いたのだ。

レイは俺の腕をカランに預けて、執務室を出て行った。


「参りましょう、殿下。
 マーシャル様は財務へ行かれたのだと思います。
 スローン侯爵は下城されたでしょうけれど、何か情報がないか、尋ねに行かれたのだと思いますよ。
 今のあの方の立場では、王太子殿下にお会いする殿下には付き添えません。
 現場の人間に探りに行くしかないですからね」

そこまでカランに言われて。
レイが少しでも、情報を拾ってきてくれるのなら。
俺も。