「母上と姉上が戻っていない。
 同行していた護衛だけ帰ってきた。
 お前も下へ降りて……」 

「護衛だけとは、どういう……」

「クラリスが忘れ物を取りに行け、と言って。
 護衛は馬車を離れたんだ。
 先に帰ってるはずの馬車がなくて、それでそれで。
 俺もどうしていいか、わからないよ」


いつも、大人ぶっている兄の表情も口調も幼くて、これが只事ではないのだ、と私にも伝わりました。
私達子供には付きませんが、現侯爵夫人の母が出掛ける時には必ず馬車に、護衛が1騎付くのです。
その護衛に離れるように言った姉。
忘れ物なんて、祖母のタウンハウスなのに、何を急いで取りに行かせたのか……

兄に手を握られて、私も下へ降りました。
下ではますます騒ぎは大きくなり、それを見ていた兄は私の手をぎゅっと握って。


「王城に居る父上に、次の伝令を出してくれ! 
 おばあ様にも、早馬を出した!
 身代金目当ての誘拐も考えられるから、王立騎士団に知らせるかは、父上にお任せする!
 こちらはこちらで出来る事は何か、考えて動きます、と!」