はっきりと口に出された訳ではありません。
ですが後ろめたさを誤魔化すように、早口になる母からは。
身の丈に合わない淡い憧れなど、殿下はお喜びにならない。
そう言いたいのだと、わかりました。


まさか母親が、娘の憧れ……いえ、恋心を取り上げるとは思いませんでした。
あのペンは私の恋心でした。

呆然として何も言えない私を、一瞬だけ謝罪の眼差しで見つめてから、母は姉の方に向き直り、私に背を向けました。
楽しそうにドレスの話をしている母と姉と。
同じ部屋にはいたくありませんでした。
私室に戻った私は泣きました。

 
父親から言われて、近付いてくる女性には気を付けている。
その様に殿下は仰っていました。
姉の場合は父ではなく、母がそう仕向けているのです。


お願いです、アシュフォード殿下!
どうか、それに気付いてください!

涙が後から後から流れました。
私はそう願うのみでした。