「昨夜は、本当に大きくて綺麗なお月様でしたからね、眺めに出たお嬢様のお気持ちもわかりますわ。
 でも、ご自分で破片を拾うなんて、あのグラスは薄くて綺麗な分、割れてしまうと刃物みたいで本当に危険なんですよ」


私は朝からメイドのレニーに叱られていました。
昨夜バルコニーで落として割ってしまったグラスの破片を、明るい朝になってから拾おうとして、指を切ってしまったのです。

切った傷口から、見る見る間に血が盛り上がって。
思わず口に含み、吸いました。
錆びたような独特の血の味に、吸血鬼はどうしてこんなものが好きなのかしら、とつまらない事を考えて……
手早く消毒して、手当てをしてくれるレニーは続けます。


「お嬢様がお身体を傷つけられたりしたら、殿下からどのようなお叱りを受けるか。
 お前の不注意だと、レニーはお手打ちにされてしまうかも。
 本当に御身には、お気をつけてくださいまし」


3年前には、いかに殿下がクラリスに夢中なのかを熱く語ったレニーの口は。
現在は、どれ程殿下が私を溺愛しているかを熱心に力説します。