何か呪文はあったかしら?
何も思い出せず、もうそれだけで、私の呪いは
不完全なのです。
それでも私は、馬鹿馬鹿しい呪いの儀式を行おうとしていました。

心に強く、姉を、クラリスを思いました。
私を騙していたのは殿下も同じ。
それなのに、私の憎しみは姉にしか向けられていなかったのです。


グラスの中には丸い月が。
そして手にした鏡には、クラリスの顔が。
私が思わずグラスを手離してしまったので、落ちたグラスは砕けちり、その音の大きさに誰かに聞かれたのではと、私はしゃがみこんで。

鏡に映ったクラリスの顔は私でした。
年々、そっくりになると言われ続けている私の顔だったのです。

それに気付いて。
私は泣いてしまいました。
遊びだと言いながら、自分に言い聞かせながら。
それでも姉を憎む、と。
消えてしまえと、呪ったのです。

グラスの水を飲まずにすんで良かった、そう神に感謝して。
温室で、殿下に『悪魔を払ってあげる』なんて、言ったことは今日なのに、昔の事のようで。
悪魔は私だ。
殿下に取り憑いた悪魔は私だ。


呪いをかける事さえ出来なかったのに。
そう思っていたのに。

翌日、姉は母と永遠に私の前から消えてしまいました。