午前の早い時間に送った先触れの使者が、アグネス直筆の返事を俺に渡す。

『明日は授業が午後までございます
 それからでもよろしければ、お待ちしています
 母が是非、殿下と夕食を、と申しております』      

しばらく考えて。 
『お言葉に甘えます 
 よろしくお願い致します』と返事を送る。
スローン侯爵夫人は、王家独特の勿体ぶった言い回しより、端的に伝える方を喜ぶ。

帰ってきたところなのに、再び侯爵邸に行かせるので申し訳ないな、と思いながら、呼び出しのベルを鳴らす。

カランが直ぐに顔を出した。 
手紙を渡して、使者をもう一度行かせてくれと頼む。
カランとは、一時仲が険悪になった。
と、言うか、怒らせた。

3年前に俺とレイがふざけてトルラキアのお土産にした、ヴァンパイア王の小さな肖像画のせいで、真剣にカランは怒って、仕事でも必要以上に話さないし、お茶に呼んでも絶対に参加しなくなった。
それで……怖いと弱味を見せた人物に面白いからとふざけてはいけないと、16にもなって初めて思い知らされた。