あんなに泣いたのは何年ぶりか。
泣きすぎて頭がボーッとして、少し痛んだ。 

温室で、小さなアグネスに抱きついて、抱き締めて貰って。
俺は大泣きをした。


アグネスに手を引かれ戻ってきた俺に、侯爵夫人が微笑みながら
『畏れながら、ご一緒に昼食をいかがでしょうか』と誘ってきた。
俺達が温室に行っていた間に、クラリスが落ち着かせたようだ。

せっかくのお誘いだが、あの状況で飛び出してきた王城では皆が俺を待っているし、何より食欲もない。
出来るだけ丁寧に辞退して、今、馬車の中だ。 


別れ際、侯爵夫人とクラリスは並んで軽くカーテシーで挨拶をし、彼女達より一歩前に出たアグネスは左手首を俺に見せながら笑うので、俺も同様に左手首の組み紐を彼女に見えるようにして手を振った。

何故だか変な気分だったが、目の前に座る護衛が懐から封筒を取り出して俺に渡したので、そちらに意識がいく。


「侯爵令嬢から預かりました」