「早く渡したかったから、今日会えて嬉しかったです。 
 来てくれたのは、私の気持ち伝わったからかなぁ」

彼女が目の前に差し出したものが何かわかって、息が止まる。
胸が詰まって、うまく呼吸が出来ない。
これは……これを今?


アグネスが俺に差し出したのは、3年前トルラキアの市で俺が買って、受け取って貰った組み紐の色違い。
黒地に、アグネスの金と青の糸がわざとらしくなく、だが美しく……
君がいつも身に付けてくれているそれと、対になっているのか。
涙で滲んで、ちゃんと見えなかった。


「あからさまがお好きじゃなかったでしょう?
 これなら、付けていただけますか?」


頷く俺の左手を取って、何重か巻いて結んでくれる。
自分の左手を俺の手に重ねてくれる。


「左手は心臓に……心に近い方になるの?」

その手首には、あの日俺が結んだ赤い……
口を右の掌で覆うが嗚咽が漏れた。