君はいつ、帰ってきた?

自分を呆けた顔で見上げた俺が可笑しかったのか、口元に手を当てて笑ってアグネスが降りてくる。
何故だか凄く機嫌がいいように見えた。
いつもと違う感じを受けて、胸がざわつく。

侯爵夫人は普段なら自分から声をかけてこなくなった愛娘から声をかけられて、表情が柔らかく変わった。


「アグネス、帰っていたの?
 体調が悪いの? 授業はどうしたの?」

俺に対しての、さっきまでの咎める口調ではなく、優しく気遣うように娘に尋ねている。
アグネスは心配そうな母親の側を、ステップするみたいに軽い足取りで通り過ぎて、俺の前までやって来る。


「今日は早めに下校になっただけ」


母親の問いに答えながら、その瞳は俺を見つめていた。
真っ直ぐ俺の前まで来ると、腕に手を掛ける。
恥ずかしがりやで、慎み深いアグネスが。
自分から俺に触れるのは初めてかもしれない。


「フォード様、私に会いに来てくれたんでしょう?」