トルラキア語の教師は気難しい男だ。
この国で外国語と言えばリヨン語で、トルラキア語の教師は少ない。
その貴重な教師の中でも、この男はピカイチだ。
だが、その分鬼かと思うぐらい厳しい。


「私は13歳以下には教えない。
 その時その時生徒はひとりしか取らない」

そう固く誓っている。
かつて、どこぞの侯爵家の当時10歳と7歳の兄弟に散々な目に合わされたらしくて、彼は高位貴族の我が儘な子供を、目の敵にしている。
そう言う俺もアグネスと知り合う前は、13歳以下には近寄りたくもなかったから、根元は同じか。


男にはその主義を曲げる気はないから、
『語学は幼い頃からが良いと聞くぞ』と言っても
『俺が素直なアグネスを連れてくるから、一緒に授業を受けたい』と懇願しても、
『アグネスに会えば13以下にも希望が待てるぞ』と誘っても、絶対に首を縦に振らない。

最近アグネスはトルラキアの友人アンナリーエ嬢に、トルラキア語で手紙を書くように頼んでいる。
それを一生懸命にストロノーヴァ先生から貰った辞典で意味を調べながら翻訳をするその姿が、健気で愛おしい。