殿下が懸念されていた噂は、ご自身が強く否定されたので学園ではいつの間にか生徒の口には登らなくなってきていました。
ところが、私が感知しない場所で、長く燻っていた噂が、確定したかのように広まっていました。

王国の社交界では……
学園を卒業された第3王子殿下に、まだ婚約者がいない事。
パートナー無しで夜会に参加されて、誰とも踊らずに早々に退席されてしまう事。
毎月決まった週末に現財務大臣の侯爵家に通っている事。
それらの事実から人々は推察して、当然の結論にたどり着き。
王子の16歳の記念夜会でパートナーを勤め、息の合ったダンスを披露した女友達であり。
同じく夜会に出席しない侯爵家令嬢との婚約確定の噂が再燃しつつあったのです。


 ◇◇◇


それは私の初等部の最終学年が始まった頃でした。
学期が始まったばかりで、夏休みに完了していなかった防火点検作業の為、初等部は早めに下校になりました。

帰宅した私が目にしたのは、いつも殿下が乗ってこられる馬車と、玄関ホールに立っていらした護衛騎士様でした。
私と殿下とのお約束は2週間ごとの週末で。
その日は平日なのに、時間が出来て急に会いに来てくださったのでしょうか?