また頷くしか出来ない私に、殿下はありがとうと言いました。
騎士様も外を向いたまま、固く握られていた拳を広げては握ってを、繰り返されていました。


「俺は20歳になる4年後までにはある程度の力を持ちたいと思ってる。
 君のお父上からは、俺に力が付くまでは君を
渡せないと言われているんだ。
 それを言われてからは俺に何が出来るか、何があればバロウズで必要とされるのか、ずっと考えているんだけれど、ようやく見えてきた気がする」

「……」

「俺は君の事を今から縛りたくない。
 君はこれから様々な人に会って、色んな事を
吸収して、どんどん魅力的な女性になる。
 俺達はいっぱい話をして、お互いの事を知っていく。 
 俺に合わせる必要なんかない。
 君は君の望むように、思うようにしてくれたらいいんだ。
 その間に俺は俺のするべき事を見つけて、君に相応しい男になった、と侯爵夫妻に申し込む」

「……」
 
「まだ早いと返事されても、貴方には渡せませんと断られても、何度でも申し込むよ」

リーエの言う通り、もっと早く殿下や姉に尋ねたら良かったのです。



「何も聞こえないな?」

「何も聞こえておりません」

三度、同じ会話が殿下と騎士様の間に交わされて。
騎士様が膝の上で固められた、大きくて強そうな拳が。
馬車に乗る前にリーエが私に振って見せた小さな拳に重なって見えました。