「迎えに来たよ」

私は少し呆けていたんだと思います。
直ぐにお返事が出来なくて。


「アグネス、あのね……」

「悪魔ですか? 殿下ではないですよね?」

「え?」

ここにいるはずの無いアシュフォード殿下に化けた悪魔が可笑しそうに笑います。
悪魔は色んなものに姿を変えて、人を誘惑するのです。
今は昼間で、もうすぐお茶の時間。
場所は教会の前。
まだ明るい内に、こんなところで騙されそうになるなんて、待ち合わせは教会の中にすれば良かったと思いました。


「アグネス、あのね」

殿下の顔をした悪魔が繰り返しました。


「俺は本物。
 絵葉書を姉上に出しただろう?
 直ぐに届けて貰って、直ぐに来たんだ」

俺、と悪魔が言いました。
やっぱり、偽物だ。


「違います、殿下はご自分の事は私、と言うのです。
 悪魔よ、この場から速やかに立ち去れ」

私はベンチから立ち上がり、プレストンから貰った小瓶をポケットから取り出して頭上に掲げました。
これは調理場の水だろうけれど、本物の聖水と
間違えて逃げ出してくれないかと思って。

それなのに、平気で悪魔は私の前に跪いて手を
差し出すのです。