アグネスの笑顔が消えた。
文字通り消えた。
全く笑わなくなったわけじゃない。
反対にずっと薄く笑っていて。

もしかして、これが、あの、レイが俺によく言う
『胡散臭くて心がこもっていない笑顔』なのだろうか。
そんなひどい笑顔を人に向けていた俺が、それを今返されている。
誰よりも大切に思っているアグネスにだ。


「アグネス嬢に会ってから、ずっとこの調子なんだ」

元気がない俺を心配してくれているのかも知れないが、その割に軽い調子で、レイがクラリスに
説明する。


学園の昼休み。
あの夜会が終わり、俺とレイはクラリスとランチを一緒に食べなくなっていたが、たまに3人で
中庭でくだらない話をしている。


この学園の敷地内にある初等部もやはり昼休みで。
アグネスはどんな風に過ごしているんだろうか。
友人達の前でなら、ちゃんと笑えているのだろうか。

家族の前では?
そう思ったけれど、目の前のクラリスには尋ねない。
確かにコイツは鋭いところもあるけれど、基本的に鈍感だからな、俺も人の事は言えないが。


「どう見ても盛り上がってなかったと、プレストンから聞きました」