クラリスの妹への『優しさ』なのだと思いました。
騙そうなんて、殿下は思っていなかった。


……今なら、今ならそうわかるけれど。
当時の私は泣くより悲しい、それだけでした。
『アシュフォード殿下は姉が好き』
ただ、それだけ。
それを受け入れようと思いました。


 ◇◇◇


「殿下へお渡しするクッキーですが、自然の甘さを感じる胡桃を入れてみましょうか?」

「よくわからないから、お任せしてもいい?」

なかなか相談してこない私に痺れを切らして、
料理長から尋ねられました。

クッキーが食べたいと仰ってくださったので、 私は料理長に手伝ってもらって、クッキーを焼きます。
クッキーだけを作ります。
もう、他のお菓子も、と……欲張ってあれこれ
調べたりしません。


ガーランドから戻られた殿下からは、アールを
連れて週末に行くから、とお手紙をいただきました。
いただいたお手紙は一度だけ読んで、文箱の一番底に入れます。
私なんかとの約束をちゃんと守ってくださる殿下は、なんとお優しい御方でしょう。
何度も読み返したりしません。
一度読めば充分です。