でも季節は、もうすぐ夏になろうとしていて。
夏になる前の気持ちのいい時期なのに、暖炉に火が欲しいと思いました。
心のどこかが冷たくなっていたからで、身体も
冷えていたからでした。

もう私は泣いていませんでした。
アシュフォード殿下が姉に、自分の瞳の色のブレスレットを贈ったと知った時は『騙された』と、カッとなった私でしたが、今は……
ただ、寂しく悲しいだけ。


当時の私はその気持ちの変化を自分でも理解出来なかったし、言葉でちゃんと表現する事も出来ませんでしたが。 
……今なら、私はそれを説明出来そうな気が致します。


『騙す』という行為を行うのは、それによって
何かを得られるからするのだと思うのです。
そう考えると、確かに殿下からいただいた手紙
の内容は真実ではありませんでしたが、殿下が
私なんかを騙して、何の得がありましょう。

いつになっても戻らない私を帰宅させる為、
クラリスが頼んだのだと思います。
殿下はそれで、あの手紙を書いた。
愛する姉から頼まれたからか、幼い私を心配してくれたからか。 
その両方からだと思いました。