その後、俺は警戒モードを解除した。
そして、普通に楽しく会話した。
俺自身もドイツの話をする人は
家族以外に周りにいなかったし、
ドイツトークは懐かしくて楽しかった。
「あ、そうだ…」
食事も終わり、そろそろ出ようかと思った時、
彼女は持ってきていた大きめの紙袋を俺に渡した。
「これ、今日のお礼。
この前、パパと料理の話で盛り上がってたでしょ?
だから、よいしょ…
フィスラーのフライパン」
「え、いいの?
ドイツのメーカーだよね?高めの…」
俺は見た目より重い袋を受け取ると、
中を覗いた。
うわ、すげ。いいやつじゃん。
「ごめんなさい。大和はティファール派だった?」
はははと彼女は笑った。
「別にこだわりはないよ」
最後に連絡先を交換して俺は彼女と別れた。
俺もアメリカに行った時は、
最初友達が出来なくてすごく心細かった。
だから、彼女の気持ちはよく分かる。
さ、予定通り終わった。
一度家に帰って、北川さんが予約してくれた店に向かおう。
北川さんとのデートが待っていることに
胸を躍らせたけど、
その日、俺が北川さんに会うことはなかった。



