社長はなぜか困ったような、
用件をちょっと言い出しにくそうな表情だ。
何…?
何か嫌な予感がする。
「前に一緒に食事してもらった、
クラウゼさんの娘さんが
加瀬くんのことを気に入ったみたいで」
クラウゼさんは、前に俺が
ドイツ語通訳要員で呼ばれた食事会で会った
取引先のドイツ本社の社長だ。
彼は俺と同じくらいの年の
娘を連れてきていた。
もちろん、彼女もドイツ人。
日本の女の子と比べると、
がっちりしていて、背も高い。
強そうに見えるけど、
中身はわりとおとなしい感じだったような…
あんまり覚えてない。
っていうか、がっつりしゃべった覚えはない。
「今度二人で食事に行きたいと連絡してきた」
こういうシチュエーションはよくよくある。
だって俺、ハイスペモテモテ男だからな。
いつもなら丁寧にお断りするけど、
今回ばかりはちょっと、
そうもいかない気がする。
なぜかというと、これは俺だけの問題じゃなくて、
ビジネスに関わってくるからだ。
「でも、彼女はドイツに戻ったんじゃ?」



