その9
バグジー



「…今の人は、紅組の新しいリーダー、嵯峨ミキさんですよ!なんでも、剣道とフェンシングでは敵なしみたいで…。あの”赤塗り”を成し遂げた”怪物”紅丸有紀さんから、後を継いだばかりだって聞いてるんですけど…。まさか、紅組のトップが来てくれるなんて…」

「…今日は南玉連合の矢吹鷹美総長補佐が立ち会ってくれるはずだったんですが、なんか、南玉の方でも揉め事が起こったようで…。急きょ、嵯峨先輩が駆け付けてくれたんです。身内でも大変な時なのに、こんな私らの為にわざわざ…」

チームの子は、二人とも涙ぐんでいた

...


「…東京と埼玉の都県境は凄いんですよ!あの嵯峨さんは女眠狂四郎、南玉連合の新総長は赤い狂犬、合田荒子…。他にも、男なんか束になってもかなわない猛女がいっぱい結集しています。今や、千葉だけでなく東京都下、神奈川のあちこちでも、南玉や紅組に倣って、続々と女だけの男とやくざ連中に媚びないチームが、続々結成されてるんです!」

「…柴崎さん、あの都県境の辺りって、大昔から猛る女が生まれ育つ土地柄らしいんですよ」

「…あそこには吸い寄せられるように、日本中から気性の激しい女たちが集まってくるんですって。逆髪神社ってとこでは、強い情念を持つ女がお参りすると、神様と対話ができるって言われてるんですよ。私たちも一度だけお参りしましたが、対話は無理でした…(笑)」

女眠狂四郎…?猛る女…?逆髪神社…?

私はガラにもなく、”コト”が終わった後、カウンターで少女二人に囲まれ、”おとぎ話”に夢中で聞き入っていた

夢中になって…


...



…まあ、こんなところだったな、私がこの都県境という地に興味を持つようになったきっかけは

そして、そんな私の心深くを見透かしたように、約半年後、”NGなきワル”大打ノボルから、猛る女の巣へのブッキング話が舞い込む

”塀の中”にな…(苦笑)

そう…、今回”ここ”へやって来れたきっかけは、紛れもなく大打のオファーがあったからだ

今年の春…、私は少刑からの出所を間近かに控えていた

そんなある日、大打が面会に訪れたんだ


...



「…おお、やっと会えたな。まあ、元気そうでなによりだ」

「アンタがここへ来るとはな…。何の用なんだ」

「おい、おい…、いきなりご挨拶じゃねえか、バグジー。何度も接見申請を却下されて、やっと来れたんだぜ。もう少し、愛想よく頼めないもんかな」

「…用件聞いて、それでだ。はっきり言って、アンタが踏まえる究極の考え方には添えない。初対面の時も言ったと思うが…」

「ああ、覚えてるよ。だが、今日はお前にとっては朗報だと思うがな。まあ、聞く耳持たねえってんなら、このまま帰るぜ」

なに…?


...



「…今の俺の立場で、朗報と聞いたら追い返すわけねーだろ。気分を害して悪かった。とにかく用件を聞こう」

「よし…。端的に言うぜ。時間も限られてるからな。…お前、俺の当時の出先、興味あると言ってたな?」

「都県境のあそこか?」

「そうだ。お前の腕を見込んで、請負いの口がある。潰してもらいたいのは女なんだ。最もそこらの男じゃ、とても手に負えないモーレツ・ギャルちゃんの類だわ。お前は女だろうが、情け容赦ないってことだからな。そういうタフな男を探してるそうだ」

まさに朗報だったな


...


「雇い主はお前じゃないのか?」

「金を払うのは星流会になる。関東直系の二次だよ。お前が都県境に惹かれるのは、要は猛る女たちがお目当てなんだろう?その愛しいギャルどもと、がっぷり四つに組み合えるチャンスって訳だ」

条件は良かったし、何しろ”そこ”へ行って、そこの女達とぶつかれるのは、まさに願っても無い話だった

だが、私は即答を避けた

大打という男の真意が図れなかったからだ

この時点で、私は大打が関東の広域組織直系と何やら、不穏な計略を描いていることを薄々知っていたんでな

まずはここを出て、仲間の情報を得てからだ

この男もそれは承知のようで、無理に即答を迫らなかったわ

「まあ、返事は今月末にココを出てからでいい。ゆっくり考えな。とりあえず、”卒業式”を済ませたら連絡くれ」

そして桜満開の風が強い日…、私は”卒業式”を無事終えることとなった