その6



「…この際だ。アンタには言っとくか。…オレの中には極めて凶暴なもう一人の自分が住みついているんだ。”そいつ”が時々、歯止めを失う。…正直、オレはいつか人を殺すかもしれないという気持ちを抱きながら生きてるんだよ。子供の頃からずっとな…」

”ついに”この男”のベールが剥がれる…”

ノボルはそう確信した…。

「もう一人の自分ってか…。要は二重人格みたいなもんなのか、アンタ?」

「いや、それとは違う。性同一性障害だ」

「はあ…?それってもしかして、肉体的には男でも内面的には女とかって、そういうやつかよ、おい…」

ノボルは、バグジーのあまりにも意外な”告白”に、完全に拍子抜けしてしまった…。
だが、本当の驚愕はその後だった。

...


「そんなとこだ。だがよう…、オレの場合、少々ややっこしい症例でな。ざっくり言えば、内面の女こそが凶暴な方なんだ。男の方じゃないんだよ。そんなところが、女に容赦しないって面に傾きやすのかもしれない」

「???」

思わずノボルは心の中でのけ反った…。

「はは…、まあ、そっちも理解不能ってとこだよな。とにかくオレはさ、”その凶暴な女”に、何としても殺人まではさせたくない。だからこそ、そいつを内包してるオレ自身、自分の意志を以って殺しの請負など拒否しなければならんのだ。まあ、ここでさっきのアンタの言葉通りとなるな。そのことに抱こうとする自分を許さない…。それだけさ。さほど深い意味はないんだ」

「なるほどな…。でもよう、正直なところどうなんだ。…殺しまではいかなくとも、”同性”の女を痛めつけたいとか、戦いたとかって欲求は強いのか?」

「ああ…、”内面さん”はとてもその気持ちが強いようだな。しかも、だんだんとエスカレートしてる感じがする。最近とみに…。でだ…、特にアンタが今言った後者の方だな、欲求的には…」

「単に痛めつけるってよりも、戦うって方か‥」

「ああ、オレの中と同等の凶暴な女達と殺し合い寸前までやりあいたい…。ややこしい表現だが、これにはもう一つ以外のオレも、漠然とだが駆り立てられてる…」

ここでノボルは条件反射的に、あることを頭に浮かべるのだったが…。

...


それは他でもなかった。

”コイツ、今の東京埼玉県境に放り込んだらとしたら…。激しく猛る女たちの群れを前に、バグジーは果たして、どう反応するんだろうか…”

だが、東京埼玉県境の猛る女のことを話そうと、喉元まで出かかったノボルは瞬時、迷った末、”ここでは”それを告げることを見送った。

...


「いずれにしても、とことん興味深いヤツだよ、アンタは(苦笑)。まあ、今後も連絡くらいは取りあいたいんだが…。いいか?」

「ああ、わかった。では、所在は今まで通り知らせる。…大打がどんな道に進もうが、オレは関知しないしな」

最後も二人は十秒以上、無言で視線を発し合った。

だが、これから約一年後…、この時バグジーが口にした言葉は齟齬を生じることとなる…。

妥協なき男達も、猛る女達の巣が発する磁気に吸い寄せられ、すでに一年後に現出するラストレジェンドのステージへ向かうレールに乗っていたのだった…。




バグジー/オレの中の凶暴な女『NGなきワルとの出会い編』
ー完ー