その5



”やはりか…。まさに、きっぱりだったな…。いいさ、それなら。だが、バグジーには今日、突っ込んでやる”

ノボルに返ってきたバグジーのアンサーは、まさに剣もホロロと言ったものだった。
もっとも彼は、そんな予感をずっと持ち続けていたせいか、内心はさもあらんと言ったところで、ショックというものはなかった。

一方で、そうであれば、バグジーには是非とも確認せねばならないことが、彼にはあった…。

...


ここは、千葉県某所…。
新興住宅街の一角にどでんと構える、スポーツジム内のロビー…。
長椅子に並んで腰を下ろしているノボルとバグジーの間には、若干の重苦しい空気が漂っていた。

「…わかった、バグジー。だが、オレも自分の進む道には妥協などない。できれば今後もアンタを雇いたいが、そっちのポリシーは尊重したいんでな」

「オレも正直、アンタと切れたくない。…しかしよう、殺しまで請負っちまったら、もうヤクザそのものじゃねえかよ。いっそ、あっちに就職すればいいと思うがな」

「就職しちまってまで殺しなどに手を染めてもよう、オレにとっちゃあ意味ないんでね」

「…」

二人はここでどちらともなく相手の方を向き、無言で視線を交わしていた…。

...


「…”あっち”にいかないで、連中のやれることはオールでやってやる…。その為に、オレは自分にNGを許さない。本業さんには、そんなオレにバリューを感じてもらうつもりでいたし、常にそれを意識していたわ。あくまでも、双方の立場を束縛しないドライな関係で、ウィンウィンのビジネス関係を目指してな」

「オレには理解不能だな」

”フフ…、お言葉じゃんか。それならバグジー、こっちもお前に問わせてもらうぜ”

...


「それならバグジー、こっちも聞くぜ。…お前さん、今まで2度、殺し寸前でブタ箱にぶち込まれてるじゃん。一度は若い女だろ。その場にいた人間の証言じゃあ、サツが来なきゃ完全ぶっ殺してたってことだそうだなあ…」

バグジーこと、柴崎典男の表情は明らかにこわばっていた。

「アハハハ…、尋常じゃねえぜ。そこまでクレージーなヤロウによう、一方的に異常者扱いされてもなあ…。何だかだぜ」

ノボルは意識的にバグジーを挑発するようだった。

”さあ、イイ子ぶるのはたいがいにしてもらうぜ、バグジー。殺しを断る本当の理由、根拠、曝せや!”

10秒ほどの沈黙の間‥、二人は再度強烈な視線の浴びせ合いを演じていた…。