その4



「…そうか、昨日バグジーがココへな」

「ええ、先週のオーダークリアのペイで…。ヤツ、アンタに会えなくてしきりに残念がってた。今度、手紙書くからと言ってました(笑)」

「アイツ、男に手紙って嗜好か…。ますます深いな、あの暴れん坊は…(苦笑)」

「とにかく毎回仕事はパーフェクトだし、ヤツなら殺しだって訳ないでしょう。今度会ったら、オレからでも聞いてみましょうか?」

「いや、ヤツのNGはオレが直に確認したい。タイミングを見てな…」

「…」

椎名はこれ以上、触れなかった。


...


「次に…、先程の星流会事案に戻りますが、諸星さんの抱き込むガキはもうわかってるそうなんで、折本さんがアンタにその人物の件で一度、話をしたいと…。時間のある時に寄ってくれないかってことです」

「わかった。やっぱよう、椎名…、東龍会とこっちの本拠横浜との中間に拠点が欲しいな。なんか最近地価とか上がってるようだし、今のうちに確保しとこうや」

「そうっすね。テナント料もどんどん上がってるし、早めがいいかもしれないか…。じゃあ、都下H市周辺でオレが当りつけていいですか?」

「ああ、それは任せる。H市内とかなら問題ないだろうしな。まあ、今週末には東龍会に行ってくるわ」

そしてその週の金曜夕方、ノボルは東龍会本部のある東京西部K市中心街に赴いた。


...


その日のノボルの面会相手は、東龍会トップ坂内だった。

「…ノボル、諸星の見据えてる先が、こっちとお前にとっては山が動く時だ。要は、その心の準備を今からしておけばいい。ふふ…、女連中の再編成は間もなくカタチができるようだからな」

”都県境の女達のフレーム再編は間もなくなんだろう…。おそらくその中心軸となるのは南玉連合だろうが、火の玉で戦ったといあの二人の女子高生はどんな立ち位置に落ち着くか…”

「…そしたらなんといっても、そこでの娘二人をチェックだな。その子らに何らかの動きが出れば、必ず相馬も絡んでくる。俺たちも、最初の豹子だけでなく、フツーのもう一人からも目を離さないようにせんとな…」

坂内と大打ノボルの焦点は、この年の春から初夏にかけて相馬豹一から遠縁の娘に”据えられた”女子高生二人の今後の挙動だった。
それはそのまま、相馬の意図する”誘導先”とみなしていた。

...


「そうですね。オレにはかえって、二人目の方がカギを握ってると思えます。そんなフツーの女子高生が再編後の行動でもたらすことを、相馬さんは読んでるような気がするんです。一人目のズべとも連動させて…」

「ああ、そう見てた方がいいな。だからってことだぞ、ノボル…」

ここでまたもや坂内は刃物のような鋭利な眼光を放った。
それを大打ノボルは正面から受け止めた。
もはやこの二人は、”同じ地点”を目線の先に捕らえていることを共に確信し合っていたのだ。

...


”坂内さんは相馬豹一の見染めた女子高生2人をもヒット対象から除外していない…。この人、本気で相和会を叩き潰す気だ…”

大打ノボルは東龍会会長・坂内のシグナルを見誤ることはなかった。
そして彼はその時ある決心をするに至る。

”この際、バグジーにNGを迫る。ヤツにははっきり確かめる…”

そしてこの翌日…。
ノボルはバグジーが滞在している千葉へ向かった。