その2


そして、その年の3月…。
ノボルの元に吉報がもたらされた。
それは北海道からだった…。


...


「じゃあ、ノボルさん、その大男を追って静岡に…」

東京埼玉都県境での張りつきのカラオケ店で、ノボルは相棒の御手洗に”出張”の意を告げていた。

「ふふ‥、横浜にちゃんちゃん亭のオヤジから電話が入ったらしい。スカウト対象、静岡の伊豆ってことだ。椎名の話ではその情報、まず間違いないようだって見立てでな。今夜ここを発つ」

「わかりましたよ、ノボルさん。そいつ、握力100でしたっけ?オレより体もデカイとか。ぜひ会ってみたいですばい」

”はは…、御手洗と並べたら兄弟みたいだろうな。聞いてる範囲じゃあ、外見はこいつと完全かぶるしな”

大打ノボルが北海道滞在中にR町の屋台のオヤジに聞き得た、通称バグジーと言う暴れん坊…。
彼はその大男を”仕事人”としてスカウトする腹だった。

その屋台のオヤジには引き続き、バグジーの所在に関する情報の入手を依頼していたのだが…。
季節が移り替わろうというこの春先になって、かなりの有力情報として、静岡という場所を知られてきたのだった。

...


「椎名にはあらかじめ話しておいたから、オヤジの好意には丁重に礼を言ってくれてらしい。なんとも律義なもんだ。ありがたい…」

「ノボルさん…」

ここ東京埼玉県境とういう進駐の地で2か月強、ノボルと間近で接した御手洗は、何度かノボルの意外な素顔を覗くたびに、何とも表現しがたいやるせない思いに至るのだった。

”この人…、こんな生き方、本当は辛いんじゃないのか…”

...


そしてその夜、ノボルは埼玉県境の都内某所を発ち、愛車のスカイラインで静岡に向かった…。
車中…、ノボルは厳寒の地での夜、ちゃんちゃん亭でほうばって食べた味噌ラーメンの香ばしいにおいを思い出していた。

”機会があったら、バグジーとツレで行きたいもんだ(苦笑)”

すでに彼の頭の中では、意中のスカウトターゲット、バグジーにすっかり会える気になっていたのだ。

”横浜に寄ることも考えたが、スカウト対象とはどうせ会えるんだから、帰りに報告がてらでいい。フフ…、バグジーさんよ、早くご対面しようぜ…”

愛車のハンドルを握るノボルは上機嫌だった…。