その16
麻衣



三日前…、ヤクザ界では悪名高い”撲殺人”倉橋優輔が、私の婚約者として、家に来てね

お母さんと会ってもらって、3人で夕食を共にした

夜8時近くまで楽しいひと時を過ごし、その後、彼の車の中で少し話をした

と言うより、打合せって言った方が正確かな…


...



「…水曜日の朝5時半にミカが迎えに来る。東京駅で待ち合わせしよう」

その日、私と優輔さんは新幹線で広島へ向かう

間宮康を預かってもらってる、五島組へ挨拶をしに行くんだ

「剣崎さんとは、直接向こうで落ち合うんですか?」

「あの人は1日早く着いて、いろいろ下話をしておいてくれるらしい。一応、俺たち二人は、婚約の報告ってことを表向きとする…。その辺、うまく踏まえといてくれな」

「ええ、承知よ。ミカさんには”それ向き”の服、貸してもらうことになってるから。初対面はかわいい婚約者ってことで心得るてから大丈夫よ」

「ああ、頼むな。でもよう、せっかくだから、そういったよそ行きの服なんかはこれからも要りようだし、買ったらどうだ?」

「うん…。でも、今回はいいわ」

運転席の彼はこぼれ笑いしてた


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広島での用を済ませた後は、剣崎さんと合流して、大阪に向かう

ここでは、例の”西の御大”と言われる人物に会うらしい

「実は俺も初めてなんだ。いいのかな、お前を連れてあんな業界の長老に会うなんて…」

この面会は、静岡の明石田親分が間宮の受取先を頼んだ際、私のことを話したってことが発端だったようだ

相馬さんが血縁に仕立てたら、組のみんながあまりに気性が似てるんで、信じ込んじゃったって…

で、その子が”あの”撲殺男と結婚することになったとね

そしたらその御大さん、”ほー、あの撲殺もんとねー。それはぜひ会ってみたいもんや”ってことになったそうだ

ふふっ、この”撲殺男”、関西では万博の年の抗争で勇名を馳せたってからね


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「大阪ではせっかくだから一泊しよう。翌日は静岡へ寄ってくれってことだ。剣崎さんは一足早く叔父貴んとこに戻ってるから、広島と大阪の首尾は届いてる。そこで麻衣が叔父貴に何をねだろうが、俺は静観する(苦笑)」

優輔さん、私の今の動きはだいたい察してるもんね

「それと、お前に頼まれてた件なんだが…」

「何かわかった?あの顔デカ、やっぱり手を打ってきたでしょ?」

「ああ…。諸星さん、ガキどもを制圧するのに、用心棒みたいなもんを愚連隊連中に送り込んだらしい。なんでも、少刑帰りの暴れん坊とか…」

「それ、詳しく調べて。広島に発つ前に動いておきたいから」

「わかった。明日、連絡する」

そして、その暴れん坊のプロフィールは翌日、明らかとなった