その14
砂垣


クラウンの二人が銀行から帰ってくるまで、俺たちはバグジーの車に待機していた

この風じゃ、外ではロクに話もできねえし…

予想通り、ヤツの車の中はとてもきれいだったよ

ほのかにミント系の芳香剤が、心地よく鼻に届いてくるし

一応、俺はあの二人との”いきさつ”を聞いてみた


...



「あいつら、地方新聞の地元広告欄を利用して、健康食品や浄水器、それに羽毛布団なんかを売りつけてんだ。ああ、これがその広告だよ」

バグジーから受け取った広告の切り抜きを見て、驚いたわ

なんと、”運勢診断を無料サービス”とある

「ヤツら、霊感商法を絡めた押し売りってとこだ。主にターゲットは高齢者で、女の方が占星術だか何だかで、これを飲むといい、これを置くといいとかって、巧みにものを売りつけるって手法だよ」

さらに驚いたのは、ある地域で一定期間稼ぐと、全く違う地域へ移り、日本中を移動しながら、その地域の地元紙などに広告を出し、”獲物”を探し続けているという

「ヤツらとは、千葉で出会ったんだ。なんか、品を売りつけた年寄りが知り合いに相談したら、そいつがタチの悪いヤツで…。あの二人を逆に悪徳商法で訴えるとかって、金を要求してきたらしい。たまたま、女がアルバイトで働いてたスナックのオーナーが俺のことを知っていたんで、用心棒として雇われたって訳だ。でね、”話し合い”について行ったんだが…」

まあ、ここまで話しを聞きゃあ、その先は最後まで概ね見通せるわ(苦笑)


...



案の定、その場ではすんなり話がつかず、向こうの連れてきたチンピラが恐喝まがいな態度ってことで、バグジーさんの出番が回ってきたと…

で、大暴れの末、相手をKOしたはいいが、警察に通報されて、気が付いた時は手錠をハメられていたんだってさ

しかし、その時点であの男女はトンズラしてて、それっきりだったと…

そして、ムショから出てきたら、約束の報酬は振り込まれておらず、あちこちで地方紙を買って、この都県境で例の広告を見つけたそうだ

バグジーは人に頼んで、広告の問い合わせをしてもらい、ここへ客を装って呼び寄せたと

あの二人も、さぞびっくりしたことだろう(笑)


...



「それで、どうなんだ、いいのか俺で?」

「もちろんだ。アンタの腕なら申し分ないよ。だがよう、まさか女にあそこまで情け容赦ないとはな…」

「俺には性別なんて、さほど意識すべき事由ではない…」

「はは…、まあよう、今回の相手はサイボーグみたいな女どもだから、そういう意味ではアンタ、適任だわ。まあ、頼むよ」

ここでバグジーは頷きながら、ニコッと白い歯を見せて笑った


...


ルックスや身なりから、当初、”バグジー”というコイツのニックネームには、ミスマッチを禁じ得なかった

バグジーってよりか、ハイセンスキラーってとこだろうって(苦笑)

だが、先ほどのヤツの暴れっぷりを見て、納得したよ

ヤツは、相手を虫けら同然に徹底的に痛め尽くすことのできる、凶暴で手に負えない生き物ってことだ

柴崎典男…、この男はやっぱりバグジ-だよ(笑)

さあ、コイツを使って今度こそ、憎たらしい女どもを駆逐だ!