その11
砂垣



まったくへんてこりんなヤツだな、バグジーさんは…

少刑帰りのケンカ狂だって聞いてたから、土方みたいな風体を想像していたが、ちょっとアレレってきたよ(苦笑)

髪型とかルックス、それに服装も今のハヤリ系じゃん

それに身につけてるもん、みんな高そうだし

まあ、がたいのサイズは概ね大場から聞いていたラインだろう

それで、コイツの実力の度合いだが…

実戦現場を拝見でってことになったわ

まあ、一応、今日は小手調べだけは見せてもらったんだが…



...



はー?

コレ、マジかよ…

「おい、砂さん!こりゃ、本モンだろう!」

ああ、すげえや…

コンクリートの境界石を、掌でつかんで引っこ抜いちまうんだからな…

土手だから、周りは土だが、地面から出てるのは10センチ程度なのに、ひょこっと訳なくってとこだったわ

握力は100以上ってことか…

それにスパーンも恐ろしくデカイ

ふふ‥、これだけで、概ね使えるってのは分かった

そして数日後…、バグジーの実戦見分となったんだが…


...


それにしても強い風だ

地上およそ60Mにある展望公園駐車場だけに、その風はハンパないわ

タバコに火がつかねえって!

「砂さん、ライター、俺が点けよう」

「ああ、すまん、大場…」

ふうー!

この強風でタバコの煙も、踊り狂うように舞い上がって行くわ(笑)

そんなつまらんことを頭に浮かべていると、蘇我の声が届いた


...


「砂さん!あれ、そうじゃねえか?」

蘇我の指差す方向には、シルバーグレイのクラウンが駐車場に止まり、男女2人が車から降りてきた

男はスーツにネクタイ、アタッシュケースを手にしてる

女も淡い紫のスーツ姿だ

二人は数メートル離れて駐車している車に向かっている

うん、間違いなさそうだ

「おい、始まるぞ!”ヤツ”から目を離すな。しっかり見届けるんだ」

大場と蘇我は「わかった」と口をそろえ、”ヤツ”の乗っている車に視線を向けた

”ヤツ”とは、バグジーこと柴崎典男だ

今日はバグジーさんの腕前を実地検分となっている


...



おっ…、やっこさん、運転席から降りたぞ

二人と何やら言葉を交わしてるが、明らかに口論だ

すると、いきなりバグジーが、男の喉元を右腕でむんずと掴んだ


あーっ!

なんとそのまま、その男を持ち上げちゃってる!

男の足は、すでに地面から1M近く浮いてるし…

ワンハンドクロー状態でのネックハンギングってところか…

男はもがき苦しんで、思わず右手のアタッシュを地面に落とした

あーあ…、足をバタつかせ、両手でバグジーの右手を離そうと必死だ

「ありゃ、苦しいだろう。あのデカいスパーンですげえ握力だもんな…」

はは…、大場がニヤつきながら解説してるよ


...



女も止めに入ってバグジーに掴みかっかってるが、ビクともしねえや

まあ、あの巨体のバグジーに、女じゃ到底無理だわな(笑)

「あれ?あの女、噛みついてるぞ!」

わあ、ホントだ

バグジーの右上腕部にガブリと喰いついてる

すげえな、あの女…

さすがのバグジーも男の首を離したわ

絞首刑状態から解放された男は、ゴホゴホしながら、両手で喉をさすってるよ

一方、バグジーは女の髪の毛を鷲掴みにして、二人の乗ってきたクラウンのボンネットに顔面を何度も叩きつけてる


...



「あっ、もう女の額から血が流れてるぞ!」

いやあ、何ともえげつないなあ…

バグジーはその女を髪の毛を掴んだまま後方へ放り投げると、再び男に襲いかかった

今度は地面に尻もちをついている男を蹴りまくってる

顔面、腹部、側頭部、腕…

右から左から両足で容赦なく…

俺たち3人は、その凄惨な暴行現場を呆然としながらも、視線はバグジーに釘付けとなっていた