その10
バグジー



予定通り”塀の外”に出た後、各地の仲間から情報を取った結果、大打は東龍会との相乗りで、都県境のガキ社会に食い込む準備を進めていることを知った

まあ、初対面の時も、東龍会とは手を組むレールはできてるのは承知して仕事も数件こなしたが、正直、仕事仲間からの話じゃあ、従来のやくざとのねんごろ関係とは別次元のレベルらしいと耳にしてたんでな

オレは実際に大打を脅威とみなしていた

当地でガキ社会に長く関与していた星流会を前面に出し、ガキ同士に戦争させ、縄張りで利害関係を有する相和会を切り崩す糸口を探っているようだと…

その星流会が後押しする砂垣グループに用心棒として付き、対決相手の猛女軍団を迎え撃つというのが私の役どころらしかった

そこで私は、星流会会長の諸星と会い、”請負い”に際する具体的な条件を提示した

それは二つあった


...



まず、金は星流会から受け取るが、女たちと自分の戦うポジションはあくまで砂垣グループの立場にしてもらい、その際、星流会は両者間の戦い方に一切の詮索をしない確約

もうひとつは、仕事が終わった後の関係は完全に絶ち、以後、私の挙動には一切干渉しないということだった

結果、そのハードルは自分なりにクリアされた

オレは星流会の諸星会長さんと契約を交わしたよ

で…、直接のオレの管轄は諸星さんが対相和会で押すっぺすガキ勢力のリーダー、砂垣順二ってことだった

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ここが火の玉川原か…

その昔、女達がその情念の丈を凌ぎ合う、決闘の場とした聖地…

川の水は決して澄んではいないが、いいな…

私の故郷も千曲川という由諸ある名高い水の流れがある

川のせせらぎで血をたぎらせる…

珠玉さ


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「…おお順二、こっちがバグジーこと、柴崎典男君だ。まあ、お互いよくコミュニケーションとって、鞍上よくやってくれ。なら、後は任せるんで、帰るぜ」

星流会のナンバー2らしい金城さんはオレ達を引き合わせると、さっさと退散したわ

まあ、”この感覚”は要チェックだな

何しろ、所詮星流会は、大打を抱える東龍会の下請けなんだ


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「こんちわ。バグジーさん、俺は砂垣ってもんだ。聞いてると思うけど」

「ああ、聞いてる。なんか筋金入りの風見鶏だってな」

「なんだと!てめえ、金で雇われてる分際でいい気になるなよ!」

「蘇我!落ち着け…。バグジーさんよ、要は俺があんたを所管だ。気に入らねえんだったら、受け取った現ナマ返上で、引き上げなよ。別に止めねえよ、こっちは」

「あんた、どうした?評判と違うな。風見鶏っていうから、もっとアレかと思ってたが…」

「はあ‥?」

「まあ、気を悪くしたら、訂正する」

「てめえ、訂正じゃねえだろ!謝罪だっての!」


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「蘇我、やめろって。はは、まあ、バグジーさん、なるべくなら仲良くやろうや。それで、早速なんだが、今回の役目は聞いてるよな?」

「星流会からは、主に女の集団が相手だと聞いてる」

「そうだ。だが、女と言ったって、そこらの腑抜けた男なんか束になっても蹴散らすような輩だよ。まずは気を引き締めてくれ。それで、アンタの”力具合”を事前に見定めたいんだが…」

「手っ取り早く相手にケンカ売って、それを見てもらえばわかってくれると思うが…」

「ハハハ…、あのさあ、こっちもいろいろ方針がある訳なんで、やたらめったらケンカはしかけられないんだよ。相手との駆け引きもあるし。まあ、やるんなら、こっちとは利害関係がない相手じゃないとな…」

「わかった。じゃあ、ムショから戻ったら落とし前をつける相手がいるんで、そこを見学してもらうか」

「砂さん、それなら問題ないだろう?」

「そうだな…。なら、その場を見学ってことでいいかい、バグジーさん」

「ああ、決行がはっきりしたら連絡しよう」

「じゃあ、当面の連絡はこの大場ってことで頼むわ」

大場と蘇我は取るに足らないカスだが、砂垣は悪くない

予想が外れたわ